健軍の住宅

House in Kengun
Kumamoto, Japan
Completed in 2022

建主:個人
構造:TECTONICA
植栽:BROCANTE
施工:ウエダホーム
写真:Katsuhisa Kida / FOTOTECA

Publications
- 新建築 住宅特集 2023年12月号, Japan
- 住人十色(毎日放送) 2024年2月24日放送, Japan

敷地は熊本市東部の谷道に沿った緩やかな北向き斜面地にあり、周辺は閑静な住宅街となっている。ここに夫婦と子供3人のための住宅を計画した。施主からは、明るく風通しがよいことが求められた。

自然環境との向き合い方について考える時、主には外部との境界の問題として扱われる事が多いと思う。極端に言ってしまえば、外部との密な関係を取り建築自体が存在を消す(透明)か、プライバシーを取って完全に外界を遮断する(不透明)か、その相反する2 つの調整に追い込まれやすい。ここではそのどちらでもない、建築に自然が織り込まれていくような余地を持った状態(半透明)となるようにと考えた。人工であり、同時に自然であること。矛盾しているように聞こえるかもしれないが、建築がその両義性を持つことは、建築それ自体が豊かな環境となる可能性を秘めていると思う。

具体的には、ほとんどの床を1 階に計画し(老後を見越した施主の要望でもある)、残った1 室を2 階に載せ、その外周にあたる部分を粗い布で覆われた半透明な壁とする。その壁は、様々な方向から陽光を取り込み、表面に幾重かの光の窓を映し出す。半透明な壁は見る角度によって透明性が変化し、重なりあって、まるでくぐもった雲のような複雑さを生み出す。壁は謂わば45cm の空気の層であり、居室から壁の中、そして小屋裏の天窓へと建物全体でつながって緩やかな風を生み出している。諸室は半透明な壁を介して、仕切られると同時に繋がっているため、家族間のプライバシーを確保しつつも、壁に漏れ込む部屋の灯りや音、匂いが気配を伝えあっている。

曇りの日には天空光で満たされた行燈のようになり、日が暮れ始めると夜の帳が織り込まれる。日々刻々と変わっていく、建築に包まれ、自然に包まれる、そんな住宅である。